映画批評『花のあと』

◆年老いた以登が孫に聞かせる昔語りの回想というスタイルがいい(70点) 凛々しい女剣士の一途な思いが美しい珠玉の映画だ。江戸時代、東北の小藩・海坂藩。組頭の家の一人娘・以登は、男顔負けの腕を持つ剣術の使い手。藩でも有数の剣士で、一度だけ竹刀を交えた下級武士・江口孫四郎に恋心を抱くが、以登には決められた許婚・平助がいた。数ヵ月後、孫四郎が自ら命を絶ったと聞いた以登は、その裏の陰謀を感じ取り、平助に頼んで事の真相を探ろうとする…。 藤沢周平の同名小説は、文庫本にして40ページにも満たないささやかな掌編。だが映画は、小説の行間を映像で見事に埋め、はかなさと強さとが同居する鮮烈な作品になっている。まず年老いた以登が孫に聞かせる昔語りの回想というスタイルがいい。遠い娘時代を懐かしみながら彼女が伝えたいこととは、どんな恋、あるいは事件なのかと期待が高まる。ただ一度の剣術の試合だったが、自分を女と侮らず真剣に向き合ってくれた男性に恋心を抱いた以登は、彼が卑怯な罠に嵌ったことを知って仇討ちを決意する。武家の娘のたしなみなのか、ほとんど感情を表にださない以登だが、剣を持てばほとばしる情熱が露に。その変身ぶりが鮮やかだ。決闘の場面は、腹黒い悪党と正義の女剣士の息詰るアクションで、大いに盛り上がる。北川景子の美剣士コスプレの様相だが、これがなかなか魅力的だ。 だが映画の本当の魅力は、以登が、美形で凄腕の剣士の孫四郎に惹かれた一瞬の恋ではなく、以登の頼みを聞いて事件の真相を探り、彼女の思いを影からサポートする平助の、平穏な愛にある。風采が上がらず仕事熱心にも見えない昼行灯のような許婚が、どんなに心が広く、どんなに以登を深く思っているか、そして実はかなりデキる男だったかが、すべてが終わった後に痛いほどよく分かった。一瞬の恋、正義の剣、穏やかで深い愛。桜で始まり桜で終わる物語の余韻にずっと浸っていたくなる。出演はせず語りだけで参加する名女優・藤村志保の柔らかな声が、映画の大きな魅力のひとつであることは言うまでもない。(渡まち子氏)この映画へのほかの批評2010年2月17日掲載「花のあと」映画ジャッジとは?お忙しい方に良い映画を観て頂くための映画批評サイト。宣伝や広告のない批評を読み、今週末観る映画をジャッジして下さい。メールマガジンで毎週1回おトクな情報もお届けしています。

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